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しかし、納得できない女はこの雷雨の中、男を待っている。
健気な姿を見せつけているのかもしれないが、男はそんな訴えに耳を貸すとは思えない。
平民が思うより、貴族の結婚は意味が重い。跡取りならばなおさらだ。
年頃と思われる男は、いよいよ青春の清算をし始めたのだろう。新しい人生を歩む為に。
「……なんで……なの……!」
激しい雨音と轟く雷鳴に交じり、女の叫び声が聞こえた。
私は恐る恐るカーテンを開けた。すると、白バラの生垣で男と女が対峙していた。
「私への愛は……永遠といったじゃない……!」
ずぶ濡れの女は、同じく激しく雨に濡れた男の両腕を掴み、なじる。
「……すまない」
男は目を合わせず小さく呟いた。眼鏡には水滴がついて雷の閃光が反射している。
女の顔が切なく歪むのが見える。
ここは二階で、しかも大雨で視界は悪いのに、彼女の流れる涙さえ見えた気がした。
悲しみに速迫した息遣いまで聞こえてくるようだ。
「嘘つき嘘つき嘘つき……っ!」
女は突然呪うように叫び、悪魔が憑いたかの勢いで男の上半身を激しく揺らす。
男は黙り込み、されるがままだ。彼にはもう言うべき言葉が見つからないのだろう。
女はべっとりと額に張り付いたブロンドの間から、男を激しく睨み、地を這うような声色で、
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