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バラ園の密会
――若い二人は、さしずめ身分違いの恋なのだろう。
私は屋敷の二階から裏庭を見下ろしながらそう思った。
バラの生垣近くには、月光に照らされた男女が一組。向かい合って手を取り合っている。
寝室から見えるこの裏庭は、私の屋敷のバラ園。垣根が視線を遮るので、敷地の裏から入り込めば格好の密会場所になる。
二人は毎晩現れる。多分、いつもの男女に違いない。
周辺の明かりは、月光と部屋から漏れるろうそく頼り。
私は老眼の目をこらし、かすかに照らされる彼らの服装に、なんとか二人の関係性を見出した。
男の方は身分が高いように見える。詰襟の上着を着こなし、眼鏡など高級品を身に着けているのは割合身分が高い貴族だ。どこぞの伯爵子息かもしれない。
一方、女は胸の大きく空いたエプロンスカートとという粗末な身なり。明らかに村娘だ。
月明かりに揺れるブロンドは、若い伯爵子息の目に身分の差を気にさせないくらい魅力的に映ったのだろう。
なぜ、彼の気持ちがわかるかというと、私にも同じような経験があったからだ。
今でこそ最期を穏やかに待つ年寄り貴族に過ぎないが、かつては私も村娘と恋を謳歌した若者だった。
そう、相手はあの娘と同じようなブロンドのお針子だった。
今となっては彼女の顔も名前も思い出せないのだが。
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