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「善神ぶって聴こえの良いこと謳っているようだけれど、あなたたちも奴と何も変わらない、″霊威″でしかないのよ」
少女は忘れない。あの神々の身勝手極まる戦争が一国の島国を焼き払い、安寧を謳歌していた人類を恐怖と絶望に陥れ、数多の亡骸が築かれたことを。
例えいま現在、善神として人類に手を貸す神々が居ようと、その人類と共存共栄を謳って生活を共にしていようとも、十年前のあの日、世界を壊した物の怪たちが、我が大切なものを奪った者たちが、″霊威″という高次元生物であることを――
「終告神だけじゃない。わたしの標的はあなたたち霊威すべて。――それを、忘れないで」
少女は善神を名乗る憎き悪魔どもに告げる――わたしの憎しみに、例外はない。
紛れもない憎悪を孕めた少女の敵愾心を前に、御簾の奥では堪え切れない嗤いがこぼれ、膨らみ、やがて弾けた。
ケタケタ、ケタケタ、と。
不協和音を奏でる三重奏は少女の鼓膜をまさぐり、心を弄び、感情を揺する。
やがてその雑音は自制をかけるように次第にゆっくりと、闇に溶けるように静まりかえ、一息。両者の間に呼気が挟まれた。
『兎も角、冥府神理会第六神席に座る神道勢力代表、天照大神の名の下、【八咫烏】に所属する導返の誘尊音に此の神託をお授け致しマス。詳しくは後ほど送付致しマス資料の通りに。それでは、また――』
平静を装った耳当たりの悪い雑音は最後にそう残すと、御簾の奥に在った僅かな気配も、煌々と燃えていた篝火も、鎮守を囲っていた肌にひりつく結界も、全てが一斉に消失した。
後に残ったのは静寂の暗闇の中、依然として拝殿に鎮座する少女と、いま新たに降り始めたかのように騒ぎ立てる雨の踊り、そして肌にじめりと張りつく湿気の触りだけ。
そんな水の調べに紛れて、少女は滴り落ちる雨だれを眺めながら、小さく口の中で呟く。
「――……おにいちゃん」
寂然とした雨夜に、金鈴の柔い音色が響いた。
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