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第一章 魅惑の血と監視者
「俺ァ、常日頃から思うんだがよォ」
二週間ぶりの太陽光が照らす大都市、東京都弥代市――
優雅に立ち並ぶ高層ビル群の窓が黄金に輝き、その反射光に照らされる濡れた路面と街路樹は艶やきを帯びて、随所に浮かんだ水溜りの世界には光の金箔が撒かれる。
その都心にて、耳障りな避難警報に喧騒がざわめくスクランブル交差点を、数多くの警備車両と標識テープが封鎖し、暴徒鎮圧用防具で包囲網を固める巡査たちの傍ら、松方幸次(まつかたこうじ)警部補は、シケモクを噛み潰しながらぼやいた。
「警察ってのは、ただでさえ税収がどうの点数稼ぎがどうのと市民から嫌みったらしく刺される上に、サービス残業上等の過激で無駄な仕事量に雑な就業システム、終いにゃ完全な縦割り社会でしごきという名のパワハラは日常茶飯事ときたもんだ。公務員っつってもロクな職業じゃねェ。十年若返れるなら俺ァ迷わず転職を決意するね」
「警部補。休日出勤にストレスを感じておられるのは重々承知でありますが、市民の前でありますので、煙草と愚痴はお控えになられたほうが……」
「っるせェ! んなこたァ分かってて口にしてんだよクソがッ! 本庁でのうのうとふんぞり返ってるお歴々たちへのささやかなる抵抗だコラ!」
高台で鈍く光るどでかい五十男像を眺めながら憂鬱なぼやきをこぼしていたら、傍らでジェネラルミンシールドを翳す巡査長から耳の痛い指摘。しかしそれも理不尽極まるヤケクソな怒声で一蹴。知ってか知らずか、ボリボリ頭を掻く松方も同じ穴の狢というわけだ。
「そもそも昔っからだが、鳥獣被害に警察が駆り出されんのはおかしいだろうよッ! 狩猟会やらなんやらのその手のプロに任せるのが道理ってもんだろうが!」
「警部補。恐縮ではありますが、本作戦の標的は……」
「アァ!? 相手はあのクソ馬の霊威様だっつーんだろ!? 分かってんだよ、んなことぐらい!」
わざわざ声にするなとでも言いたげな粗野な物言いは、もはや遣り場のない不条理を当たり散らしたいだけであった。
霊威――それは半世紀前に、突如現れた神話に棲む神々たちの総称。
彼等の持つ力は災厄に等しく、低級にしたって街ひとつが危険に晒される脅威なのだ。そんな彼等が暴れ出した日には風紀も治安もあったものじゃない。
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