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「だからこそ言ってんじゃねーか。妖怪変化の類はお高くとまった霊威官やら胸糞悪ィ天使どもの専売特許のはずだろ! それがなんだァ? 蓋を開けてみりゃあ、やれ鬼種の暴動に手を割かれて人手不足だの、我が主の御心に従うまでだの、どいつもこいつもぶーたれやがって! こちとら地に足つけたただのニンゲン様だよ畜生ッ!」
そんなニンゲンの出来ることなどたかが知れている。人的被害を出さないよう避難誘導で市民を退避させ、強化防具で身を固めては万全の陣地を敷く。
しかし、今回は相手が相手なだけに、準備した身に纏う防弾チョッキも腰に提げた鉄砲も、頼りないことこの上ない。まるでビニール袋を着せておもちゃを引っ提げているような気分になってくる。
「あぁ~あ! 洒落臭ェ、早く帰りてェ、キンキンのビールで肝臓冷やしてェ!」
「ちょ、ちょっと君っ! 止まりなさいッ! ここから先は――ッ!!」
「あ? んだァ?」
胸で煮えくるモヤモヤを煙に巻いて飛ばそうと懐から出したマイルドセブンを口端で銜えたところで、背後からその騒動は聞こえてきた。
何事だと眉根を顰めた松方が、そのみすぼらしい無精髭面を振り向かせたところで、無数の警官たちの間を縫い駆ける人影を認めた。
詰襟の制服に身を包む少年。その額からは夥しいほどの汗が滲み、余裕のない引き攣った表情を引っ提げては、最前線に立つ松方目掛け、一心不乱に疾走してくる。
――その少年を捉えた瞬間、松方の全身に嫌な怖気が巡った。
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