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「て、テメェは……――!?」
「止まりなさい、少年ッ!」
咄嗟、松方と少年の間に割って入った小言の巡査長が両手を広げては、捕縛に走る。
しかし、少年は顔を強張らせながらも身軽な体捌きでこの搦め手を逃れては、巡査長の背中を踏み台に、封鎖されたバリケードを飛び越える。
その刹那で、松方を横切る少年の三白眼が向くや、互いに既視感の交換をすると、
「ゴメン、松方のとっつぁん! 後任せた!」
目と鼻の先で後生だよと合掌。切羽の詰まった謝罪を置き土産に、少年は走り去る。
取り残された松方は呆然と立ち尽くしながらも、じっと避難の人混みへ紛れていくその傍迷惑な丸い背中を眺め続けては、先程とは違う意味で肝を冷やす。
「な、何だったんですか、いまの嵐みたいな少年……? 警部補とお知り合いのご様子でしたが」
「あぁ、知ってんよ。あのクソガキのことはよォく、な」
足蹴にされた巡査長が問うや、松方は意味ありげに含んではそう答え、「んなことより」と一拍置きながら、少年がやってきたであろう方角へ視線をやる。
「――本当の嵐は、これからみてェだぜ?」
「は――ひッ!?」
顎をしゃくってみせる松方に従うまま、おもむろに首を巡らせた巡査長は絶句する。
輝かんばかりの白銀の毛並み。獰猛にして美麗なる一線の滑走に伴って、防壁として張っていた幾つもの特型警備車が頭上空高くを舞い上がり、芸術的で強靭な螺旋状の一角が鋼鉄の車体を紙細工のように貫いては、狂気に燃える瞳が神威の如き威厳を発揮する。
渦巻く狂乱と叫喚。怒涛に追い立てられる武装警察たちが恐慌に狼狽え、瀕死の思いに青ざめた顔色で逃げ惑う。
そんな途端に阿鼻叫喚の坩堝と化した混乱の現場で、齢四二となろう松方は、あの怪物を引き連れてきたであろう忌々しい三白眼に向け、届く限りに、絶叫した。
「あんの、クソガキがぁぁぁぁあああ――ッ!!」
そうして市街に、気高き一角獣の傲慢なる嘶きと、中年オヤジの怨嗟が、轟いた。
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