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◇
――先に謝っていてよかった、と響き渡る轟音と湧き上がる悲鳴を背に真新しい水溜りを踏破する少年、明星悠麻は勝手に安堵し、自己完結していた。
本日は生憎と快晴。少し早めの梅雨晴れに休日明けが重なった大通りは雑踏がひしめきあい、湿度温度ともに上昇傾向。言っては何だが人混みが人ゴミにしか見えない。そんな温暖化の根源たる害悪なゴミどもの間を疾走するのはひどく気分を害するものだ。
「くっそ……ッ!」――しくじった。
早朝より吹き散らす汗粒を嫌に感じながら、悠麻は荒い呼吸の連続の間に悪態を吐いた。
十数分前に幼き同居人とアパートの管理人さんへ送った気持ち悪いほど爽やかな笑顔は何処へやら。今はただ己の不幸を呪って背後から迫りくる圧力から逃げ惑うだけ。実に滑稽極まる不幸沙汰である。
「いや、そらまぁおれの不注意ではあるよ? 天候に釣られて有頂天だったのか、足下の空き缶踏ん付けて転ぶくらいには有頂天で注意散漫だったとは思うよ?」
今時珍しいほどのドジッ子属性を発揮してしまった自分への羞恥心と地球汚染を意に介さないポイ捨て犯への怨念が尽きない。地球には優しくって昔から言われているじゃないか。もういっそどこぞの外国と同じくポイ捨てした奴は罰金とか前科付くようにすればいいのではないだろうか。
なんて益体もない私情込みの地球汚染対策を発案させながら、「だからって」と悠麻は弱々しく呻き、着実に迫りくる背後の圧力へと、その憂鬱な視線をやった。
「朝からあんなおっかない牡馬さんにストーキングされる趣味はないんですけどォォッ!!」
市街の中心。青ざめた形相で走り去る悠麻の後ろを覗き見ては、ひしめき合う雑踏がぱっくりと割れて、その異常で異形なる生物にスポットライトが当てられる。
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