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少年は、ひび割れた道路の片隅で、その音を聞いていた。
夜空を紅く染める黄昏と退廃の景色。
目下で惑う足音がのたうつ大蛇のように隆起沈降の激しいアスファルトを忙しく叩いては消えていく。
天上のビル群は劫火に呑まれる。
ヒトが逆巻く業火に喰われる。
その光景はまさしく地獄のようで、ひどく現実離れしていた。
その炎夜の下、逃げ惑う人々と共に蔓延る魑魅魍魎。
誰しもが一度は聞いた事のある御伽噺や伝奇、神話伝説の魔物の形容を象った異界の生物たちが、上空に浮かぶ深淵より舞い降りては血と火と肉塊の海を齎す。
やがて大気を震わせる重低音のジェット音が山の向こうから響き、流星の如き機械の鳥が迎撃に飛び出した。
アクロバットな旋回を繰り返しながら、夜空に浮かぶ異界に潜みし巨目を取り囲み、好機と見るや、空対空ミサイルを切り離す。
着弾。空中に眩い閃光と火焔の華が咲き、一瞬の歓声が沸く。
が、異界に潜む巨目は身じろぎひとつせず、これを受け止めては一睨み。
それだけで取り囲んでいた荒鷲たちの悉くが撃ち墜とされ、火の海の火薬となる。
悲鳴と怒号の混ざる絶叫が噴き上がる。
金切り音の如き巨目の哄笑が絶望を加速させる。
地上でまた恐怖に歪んだ生首が飛ぶ。稚児を抱えた親子が崩落した瓦礫の下敷きとなり、無慮千万の避難の足に呑まれた老婆が無残にも踏みつけにされ、愛する人を守ろうと盾になる男が目の前で惨たらしく泣き別れる。
遠くで泣きじゃくる幼い子どもの慟哭が。
近くで響く女性の断末魔の大喊が。
まどろむ意識と細切れの視界の中で、絶望の音だけが響いて、徐々に遠のいていく。
――嗚呼、これはきっと夢だ。
少年は胸の熱さに手をあてがう。
胸部から腹部にかけてぽっかりと開いた穴。
柔らかく粘っこい臓物に触れられて、体内から飛び出していることに気付く。
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