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『いやいや、申し訳ありませんねぇ。何分巷では有名な方デスので、そう簡単に人前に素顔を晒すわけにはいかないのデスよぉ。ここはワタクシの顔に免じてどうぞお許し下さいねぇ』
「だから見えないから。下げている頭も謝意も」
意味も意気もない謝罪などしていないのと同義である。
相手もそれは理解しているのだろう。軽薄を絵に描いたような態度でせせら笑いが連鎖する。
『ふふっ、とことん嫌われたものねぇヨミちゃん?』
『ええ、まったく。我々は我が娘のようにさえ思っているというのにねぇ姉様?』
姉様と呼ぶ女の艶やかな声に同意し、娘とまで嘯く男。
どこまでも癇に障る連中である。
『それにしても』とそこで先客の男は切り上げ、続けておもむろに口にした。
『正規の導反として独立してから早一年……どうデス? これまであげられてきた報告書を見る限りでも、今こうしてお顔を拝見した限りでも、だいぶと熟れてきたように思えるのデスが?』
「熟れて……?」繰り返す少女の小耳が一瞬、ピクリと立つ。そして次には、少女の喉からは乾いた笑いが発せられていた。
「そうね。確かに一年も続けていたら嫌でも慣れてしまうものなのかもね」
薄ら笑みを浮かべて、呟くように少女は応える。――もう、一年も続けているのか。
「で、それが今回わたしを呼んだ理由と何か関係が?」
少女の問いに、くすり、と今度は先客の笑う気配があった。
『そうデスねぇ……それは今後の貴女次第、デスかねぇ』
「それは一体どういう――ッ!?」
瞬間、爆発的に膨れ上がる殺気を少女は感受した。
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