序章 因果の始まり

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 拝殿に座る少女の頭上――刀だ。  殺気の群れの正体である無数の刀剣たちが少女を的に切っ先を向け、串刺しにせんとして殺到する。  退路はない。降り注ぐ回避不能の殺意の雨に無残にも少女の頭蓋と肉体は穿たれ、脳漿と内臓の飛散した血の海に沈む。  ――そんなイメージは、代わりに響いた金属の衝突音と艶やかな火花により途絶された。  突如、少女の左手に現出した鮮血の太刀が、ひとりでに現れては、すべてを叩き落としたのだ。 『やりますねぇ! デスが……――詰めが甘いのでは?』  喝采の声が上がるも、尚も殺気は止まず、別の方角から。  殺意の雨の次は、追い打ちを掛けるように現れた二体の鎧武者である。  剛腕から横振りに振るわれる太刀が弧を描いて、少女の雁首を喰らいにかかる。  これまた背後からという死角を狙う狡猾さにも関わらず、少女は――。 「――それは、どちらのことで?」  動揺することなかれ、またしても紅い太刀の乱舞が炸裂する。  人知を超えた鎧武者の剛腕の太刀も、ひらりと滑り込むように刀の側面を打ち抜いて、空を切る。  剛腕が仇となり、豪快に空ぶった鎧武者の体勢が崩れる。  そこで、少女が肉薄する。  即座に懐へ潜り込み、くるりと一回りするように横薙ぎに一閃。  紅い閃きの後に二つの甲冑が宙を舞い、鎧の崩れる音が響き、輝く粒子となって霧散した。  後に残ったのは、依代として用いられていた、人形の式神二枚だけであった。 『素晴らしい。布都斯魂剣(フツシミタマノツルギ)の力をこうまで扱いこなすとは……想像以上デス』  そこへ、二度目となる拍手が少女の耳に届く。 「それはどうも。……で、暇を持て余した神々にしても少し遊戯が過ぎるんじゃない?」  不快に目を細めた少女が、キッと鋭く睨めつける。 『いやいや、これまた失礼致しました。どうも貴女の実力を疑問視する声がいくつかありまして。この遊戯ももとはそのひとりである出来損ないの弟による愚案なのデスよ』 『出来損ない、か……フッ。根暗の兄者に言われるとは、我も堕ちたものよ』  これまで沈黙を貫いていた三人目の気配が、ここで現れる。
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