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さみしいよ。
母さん。
本当は言いたい。
そう言うときっと母さんはぎりぎりの時間まで俺の傍にいてくれる。
でも俺は声が出なかった。
母を引き留めるという事はナツミを生かし、母を殺すという事になる。
俺はその覚悟を持てなかった。
口を噛みしめ何も言わない。
「トウヤ。さみしい時はさみしいって言っていいんだよ」
唇が震え、涙が溢れだす。
だが、俺は何も言わなかった。
母は俺の涙をハンカチで拭う。
「トウヤは偉いわ。もうちゃんとお兄ちゃんだね」
兄……。
そうだ。
俺はこの日、本当の意味で兄になったんだ。
「母さん。一つだけ聞いていい?」
「うん」
「もし、母さんかナツミのどちらかしか助けられないなら僕はどっちを助けるべきかな?」
「どっちもはダメなんだよね?」
「うん」
母さんはにっこり笑う。
「母さんがトウヤの立場ならナツミかな。でも自分が正しいと思う方を選びなさい」
「どうして?」
「トウヤは父さんに似て正しいことができるから」
俺は泣くのをやめ、母に笑顔を贈る。
「……うん。母さん。大好きだよ」
「ありがとう。トウヤ。母さんも大好きよ」
「もう一つだけお願い」
「僕とナツミと父さんに手紙を書いてくれない」
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