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「うん? 分かった」
母はどこかに電話すると手紙を書き始めた。
俺の最後の頼みに母は笑顔で答えてくれた。
一枚一枚丁寧に書かれた母の文字を眺める。
そこには愛に満ちた文が書き添えられていた。
全ての手紙を書き終えるとちょうど玄関のチャイムが鳴った。
「トウヤをお願いね」
「ええ。発表会は上手く行くよ。ナツミちゃんあれだけ練習してたんだから」
「ありがとう」
母さんはライカの母さんに礼を言うと俺の方を見る。
「トウヤ! 行ってくるね」
「いってらっしゃい」
俺が本当に見た最後の母は心配そうに見つめる悲しげな顔。
それが今の母さんは笑顔だった。
俺も笑顔で見送った。
扉が閉まると母の顔は当然見えなくなる。
だが、俺はそこずっと見続けていた。
それからタクシーが進む音が聞こえる。
「トウヤ! 何で泣いてるの?」
ライカが俺の頭をなでる。
「泣いてないよ。泣いてなんかない」
母さん。ありがとう。
「ここは変えないんだね?」
ああ
「本当にいいのかい?」
くどい!
「じゃあ、次に行ってみよう」
パチン!
指がはじかれる音が聞こえると光が漏れ出し再び視界を奪う。
また視界がはっきりしだすと今度は夕日に染まる桜の木が見えた。
ここは……。
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