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厳密に言えば、俺の日課ではなく、妹の日課。
校舎裏にある日陰の下で変な形の真っ赤なベンチに妹は座って本を読んでいる。
時折、本から目線を外し、桜を眺める目線はどこか悲しげに見えた。
俺も同じように桜を見てみる。
悠然と存在し、太陽に向かってそびえたつ桜はどこか気品すら覚えた。
しかし、ここは俺にとっては苦い場所。正直、あまり長くはいたくなかった。
俺は妹の前に立ち呼びかける。
「ナツミ」
ナツミは読んでいる本から目を離すと俺の方を見て微笑む。
「あっ? 兄さん」
簡素ではあるが清潔感のある服装は大和撫子を連想させた。
黒い長い髪が風に揺れ、大きな瞳や優しい口元は母さん……に似て美人になったものだ。
「またここにいたのか?」
ナツミは頬を膨らませる。
「もういいでしょ? ここが好きなの」
こんなくそ熱い日に外に出てこの木の近くで本を読み続ける。
何を好き好んでこんな場所に居続けるのか?
俺には理解できなかった。
その奇行はナツミが入学した時からだ。
時間があるときは地面にハンカチを敷いて桜を眺める。
ナツミの変わった行動にジュンが見かねてDIYでベンチの様なものを作った。
何でもジュンの情熱を表現したベンチだそうだ。
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