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そして奇妙な事に俺の目線はライカと同じ所にある。
ここは……。
変えたい過去。
いや、俺のトラウマといっていい過去。
母さんが死んだ日……。
俺が母さんを殺してしまった日。
忘れ去りたい過去の絶望。
恐る恐る後ろを振り向くと清楚な着物に身を包み、真っすぐ本来は長い黒の髪を結い上げた気品ある顔立ち、そして何より懐かしい香りで笑顔の母さんが俺を見つめる。
「どうしたの? トウヤ」
「母さん……」
母さんを見ると涙が溢れてしまった。
もう二度と会う事の出来ない母のやさしい声を聞いて俺が俺である為の張りつめた糸がプツンと切れてしまい、号泣する。
「ご、ごめん。トウヤ。痛かった?」
ライカが俺の手を離し心配そうに見つめる。
異変に気付いた母が俺に駆け寄る。
「どうしたの? お腹痛い? 腕痛い? 病院行く?」
「ううん。大丈夫」
「ホント? トウヤはえらいね」
「うん」
俺の頭を母が優しくなでる。
やり直したい過去。
こういう事か……。
俺はこの後、母と些細な事でけんかをする。
どうしようもないバカだった。
ナツミのピアノの発表会に向かう母に俺は嫉妬する。
あの忙しい父さんもナツミの発表会に出席する。
俺だけがのけ者。
俺は大切にされてないと……。
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