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人気のない職員室では、夜のニュース番組が流れはじめていた。
「無人ロケットを使い、隕石の軌道を変える作戦は失敗しました。軌道がこのままであれば、70%の確立で地球とぶつかります」
「地球とぶつかる確率はどんどん上がっていますね」
何かの学者らしきコメンテーターが、分かり切ったコメントをする。
先生は、手にしていた赤ペンをぽいっと放り投げると、腕を頭の上で組んだ。先生の手はごつごつしている。女子とももちろん違うし、クラスの男子とも違う。大人の男の人の手って感じだ。
ニュースを一通り聞いて、先生は答える。
「だってよ。まだ隕石がぶつかる可能性は70%。残り30%は、俺たちは生き残る可能性がある。だったらちゃんと勉強して、卒業してから大人になって、まともな恋愛しな」
少年みたいにくりっとした目をして、先生は言う。大人だけど、全部が大人じゃない。先生はそんな人。まだ26歳。私とたった10個も違わない。それなのに、自分は大人で私は子どもだって言って逃げる。
「いつも、大人になったらって、そればっかり」
ぷうっと頬を膨らませると、「そんな顔しても俺には通用しない」と先生は笑った。
「さ、帰った帰った」
立ち上がると、さっきまで下にあった先生の顔は、あっという間に見上げないと見えなくなる。
ぽんと背中を押されて、職員室の外に出された。
「はぁい。さようなら」
「さようなら」
諦めて、手を振る。先生も、振り返してくれた。
こんなやり取りは日常茶飯事で、一年前からやっている。
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