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「先生、私ね。先生のことが好きです」
先生の顔を見逃さないように、じっと見つめた。先生の顔には一瞬驚きが浮かんだあと、すぐに元通り、大人の顔になった。
「あのさ、冗談やめろ」
「冗談じゃないよ。本当の本気」
先生は、少し黙ったあと、「そっか、ありがとう」と答えた。
「でも、俺は大人で、ニレノは学生だろ。だからどうしようもできない。ごめんな」
お手本みたいな答えだった。
「ニレノが大人になったら、やっと対等なんだよ。大人になってから、もう一度考えてみてな」
私のことを、好きだとも嫌いだとも言わない、年齢を理由にする優しい答え。だけどそれは、今の私にとっては、禁句。
「私は、大人になれないかもしれません」
先生の目が揺らいだ。一生懸命大人のフリをしているけど、先生だって私たちと変わらない。この無くなるかもしれない世界で、そのことを忘れたふりして、ただ毎日を過ごしてる。
先生は一瞬のうちに、大人としての自分を立て直す。
「でもまだ、60%も、この世は滅びないって言われてる。だから、投げやりになるなよ」
教師らしくお説教か。とため息をついた私の頭を、先生がぽんっと撫でた。
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