そのもの、青き淵より

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「この時代、この地域のメキシコ周辺にあったのが、”帝国”なのか、諸都市が並立した一種の”連邦時代”なのか、はっきりしない。文明論者ではない私がそこに言及するのは、そうした時代背景が、このトルテック技法に影響を及ぼしているのは間違いないからである。  トルテカ神話では、”天の川”あるいは”雲の蛇”といわれるミシュコアトルという指導者に率いられた一団が、この時期にこの地域に外部よりは入り、その子セ・アカトル・トビルツインが帝国を築き、羽毛の蛇神ケツァルコアトルを名乗ったという。  しかし、その一方で、神テスカトリポカを信望する好戦的戦士集団との抗争が展開されるようになる。伝承では、クモに変身して王宮に侵入、ケツァルコアトルを酒におぼれさせ、すさんだ政治をさせたという。  しかし、その後、民衆の手でテスカトポリテカは葬られ、ケツァルコアトルは正気に戻ったとされる。  なぜ、そのトルテカ神話を皆さんに知らせたかというと、まさにその故事がトルテック技法に色濃く影響していると思われるからである。  トルテック技法では、人の心には”パラサイト(寄生体)”と呼ばれる邪悪な存在が住み着いていると考える。このパラサイトを排除することで、人は幸せになれると教えるのである。  そう、それはまさにテスカトリポカに篭絡されたケツァルコアトル王と同じ文脈なのだ。  そして、民衆がテスカトリポカを排除し、ケツァルコアトルを正気に戻した行為は、パラサイトを人の心から排除させるのと同じ行為ではないか。  トルテックでは、このパラサイトと戦い排除する存在を”戦士”と呼び、他の宗教体系のように修行者という発想をしないのも、この民衆革命とでも言うべき歴史の現実行為の結果なのではないだろうか。そして、パラサイト=テスカポリトカを排除することで、元々は天の川にも披見できる”偉大なる存在”の子孫である人=ケツァルコアトルは、その心の本領を発揮できるようになるという論法になったのではないだろうか。おそらくトルテック技法を極めた人々は、自分のうちにある”偉大なる存在”との絆を感じていたに違いない。それが、技法である以上、それを極めることができれば、私たちも、彼らと同様に大いなる存在の子孫としての心の本領を発揮できるようになる。まさに悪神テスカポリトカ=パラサイトの悪影響から自由になれるのである」
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