1人が本棚に入れています
本棚に追加
やがて俺たちは住宅街の一角にあるマンションに辿り着いた。
悪影響を与える思念は送らない。
それがソウルデリバリーの鉄則らしいが、その説明を聞いて合点がいったことがある。
所詮、闇に関わる妖術師でも人の子だ。
突然の痛みで苦しい思いをしたはずなのに、親父の死に顔はうっすらと微笑んでいた。
温かな夢を誰かに見させる。
人の道具となった妖を葬りつづけてきた親父にとって、それははじめて知る充足感だったのにちがいない。
「なるほど。親父もあんな顔して人情肌だったんだな」
貨物庫のドアを開いて封をほどきつぶやくと、彼女が小首をかしげこちらを見た。
死んだ女の思念は青白い炎となって、最上階の窓へと潜り込んでいく。
この後どうなるんだと訊ねると、いい夢を見ると思いますよと彼女は言った。
さて。
気にかかるのは、これからこの軽トラと幽霊をどうするかだ。
どうやら俺には相続しないといけないものがあるらしい。
とかく世の中は面倒だ。
思えば彼女の名前もまだ聞いていない。
軽トラのエンジンをかけると、俺は自分の名を助手席に告げることにした。
おわり
最初のコメントを投稿しよう!