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寝る前に庭を見ると、軽トラが一台停まっていた。
一ヶ月前に心筋梗塞でぽっくり逝った親父が購入したものだ。
軽トラを買って以来、どういうわけか親父の表情は柔らかくなり、夜更けにドライブに出掛けては上機嫌で明け方に戻ってくることが時折あった。
とっくの昔に死んだお袋が生きていたら、首根っこをつかんで問い質しただろうが、俺はあえてそうしなかった。
大学の学費さえ出してくれれば、余計な干渉はしない。
どこかおかしいと分かっていながらも、そう決め込んでいたのだ。
が、問題なのはこの家の住人が俺一人になったことだ。
家はいずれ引き払わないといけないだろうし、軽トラも処分する必要がある。
相続やらなんやら、世の中は無駄に細かいルールで形作られている。
まったくもって不便なものだ。
一番困るのは、そうしたルールから逃れる術を俺が持っていないことだった。
そんなわけで、パジャマに着替える前に庭に出ることにした。
ずっと放置したままの軽トラのコンディションが気になっていたし、なによりも親父が所有していたものだ。
もしかしたら、人様に譲ってはいけない代物かもしれない。
俺の親父はふつうの公務員だったが、それはあくまで仮の姿。
本業は妖を始末する妖術師だ。
妖の大半は、蠱毒に利用された生き物たちのなれの果て。
共食いの餌食になったり、紙くずのように使い捨てにされた蟲や動物の怨念だ。
法律やら呪術やら、権力者はろくなことを考えない。
俺は溜め息をつくと、シューズボックスに置かれていたキーを取って外に出た。
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