1025人が本棚に入れています
本棚に追加
「ええ。そして僕は、今や貴重な存在となった、子供の産める大切なオメガだって」
その言葉を受け、ますますメイドは笑みを深めた。
「そうです! つまり、この家の命運を握るのは、奏さまに掛かっているのですよ」
「……はい、わかっています。僕は結城の家の再興の為にも、必ず正嘉さまの胤を頂き、見事跡取りの子を産んでみせるよう努力します」
わずか十歳の子供が言うようなセリフではなかったが、連日周囲の大人たちから、呪文のように繰り返された言葉だ。
奏はそれを不思議に思う事も疑問に思う事も無く、一途に信じた。
(正嘉さまは、今年お生まれになったばかりのお子様。その可愛らしいお姿は、写真でしか見た事がないけれど……僕は、将来正嘉さまに寵愛されるような番になれるように、頑張ってこの方に相応しいよう自分を磨かないと……)
そうすれば、自分も幸せになれるし、周りの大人たち全員も幸せになれる。
――――言葉巧みに、奏はそう信じ込まされ育ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!