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    「それでは約束が違います! 」  ヒステリックな声に、奏はビクリと肩を震わせる。  しかし、姿勢は崩さず、あくまでエレガントに、ソファーへ端然したまま、人形のように微笑む事を続ける。  奏の視線の先には、あの『正嘉さま』が腕を組んで仁王立ちしているのだから。 (僕も、正嘉さまに倣って立った方がいいのかな……)  口許へ笑みを刷いたまま、隣に控えている侍従に向かい、そっと視線を送る。  だが、こちらは一切表情を変えることなく、冷たい氷の彫像のように佇むだけだ。 (どうしよう……)  母とこの屋敷へ来て、奏だけがこの居間に通された。  しかし、母と青柳当主である遼太郎さまは、すぐ隣の部屋で何事か話し合いを始めたらしい。  その声が、壁一枚隔てたこちらまで聞こえてくる。  とても友好的には感じない雰囲気に、奏はどうしたものかと不安であったのだが、母から『ここで大人しく待っていなさい』と言い付けられ、動けないままずっと座っていた。 そうしていたら、いきなりドアが開いて、初めて見る実物の正嘉さまが姿を現した次第だ。 (毎年写真を頂いて見ていたけれど――――正嘉さまって、まだ八歳なんだよね。でも、将来は僕より大柄になりそうだな……)  背丈も肩幅も、今はまだ奏よりずっと小さいが、骨格がしっかりしているのでこれからどんどん成長しそうだ。  そして今日から、この人の番になるのだ。
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