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「さぁ……これで、落ち着くはずだ」 「すみま、せん……博士……」  静脈に吸い込まれる薬液を虚ろな視線で見る(かなで)に、七海(ななみ)は苦笑を浮かべる。 「『先輩』だろ? 」 「はい、ありがとうございました……先輩……」  薬が廻り、徐々に悪夢のような発情が治まってきた。 ――――そして、ようやく人心地つけた奏である。  ここは、A大学内にある、オメガの『巣』と揶揄される、七海達樹博士が率いるオメガ症免疫ラボ(研究室)である。  このラボ。  国や民間の製薬会社とも提携しているので資金は潤沢かと思われがちだが、実際は違う。  予算は限られ、彼等(オメガ)はここでギリギリの状況の中、実験や研究を繰り返していた。  彼等が必死になって開発しようとしているのは、彼等を真に救う『方法』である。 ――――オメガの発情症を、高額な発情抑制剤を使うのではなく、免疫療法によって根治する。  それが、彼等オメガの使命であり、究極の目標であった。 「……薬、あの、お金……」  発情抑制剤の薬液は、一本3万はする。  奏には、そんな金銭的余裕はない……。  泣きそうな顔をする奏の頭を、安心させるように七海はポンポンと叩く。
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