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きまぐれにもほどがある。
つい振り返ると、唇を少しゆがめて憲二が笑う。
「だって、貞節の象徴に一角獣、貴賓の象徴に獅子、それから小動物と植物をちりばめて、さあ、謎を解いてみなさいって見下ろしているんだぜ?こんな感じ悪いのから俺を連想するって、いったいどんなイメージだよって頭に来たね」
「まあ、この時代は文盲が多いから、教訓めいたテーマで作られたんだろう」
さりげなく話を逸らそうとするが、そんな姑息な手に乗るはずもなく。
「それにしても、こんなのと俺を一緒にするか?ふつう」
だから、その男とはそれっきりだったのだろうと、自己分析までされて、開いた口がふさがらない。
「そういや思い出したけど、これを見に行ってしばらく滞在しようとか気障ったらしく誘われて、気持ち悪かったからあえて独りで行ったんだっけな」
その男は、間違えたのだ。
憲二は、誰のものにもならない。
たとえ、腕の中でどんなに甘い時間を共有したとしても、次の瞬間にはあっというまに飛び立ってしまう。
こうして隣に立っていても、決して心の奥底が見えないように。
どんなに近くにいても、決して手に入らない、水面の月。
「・・・あながち、その男の言ったことは間違いじゃないと思うけど」
ひそりとため息と共に落とした。
「なんだよ、それ」
「どれも同じじゃないけれど、どの貴婦人も、どこか憲に似てる」
「・・・・かつみ?」
不思議なことに、少し、憲二の瞳が揺らいだように見えた。
「清廉で、高貴で、あらゆる知恵を支配して・・・。どこかはかなくも、どこか神々しい、唯一無二の貴婦人。きっと、彼はそう思ったんだろうな」
誰よりも、君を愛す。
彼の言葉は、心に響かなかった。
なら、自分の言葉はどうだろう。
金色に光る瞳を覗き込むと、時間が止まったような気がした。
「かつみ・・・」
花よりもかぐわしい吐息で名前を呼ばれて。
思わず頬に手をかけてしまう。
手の平でなめらかな肌を感じながら、存在を確かめる。
きらめく、至高の宝石。
「・・・行こうか」
「・・・ん」
ゆっくりと身を離し、出口へ向かう。
遠い瞳に謎を秘めて。
問いかける。
わたしの中の私を、見つけてごらん、と。
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