第十章~動き出す歴史~

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広間から少し離れた縁側で、一人酒をしている人がいた。 くいっと、一杯喉に流し込んで、夜空を切なそうに見上げている。 (綺麗だな……) 常日頃から、眉間に皺を寄せているあの人だとは思えなくて、こちらまで気が緩んでしまう。 気になって、こっそり忍び寄った。 二夜「……お酒、弱いんじゃありませんでしたっけ」 そっと話しかけてみると、私の存在にようやく気づいたようで、彼は私の方を見た。 土方「ん、ああ、更夜か……」 二夜「こんなところで一人酒なんてしてたら介抱してもらえませんよ。お酒弱いんでしょう?」 土方「少し飲んでるだけだ」 二夜「なんか、妙に素直ですね。土方さんって、酒は飲まないだけだー、とかなんとか言って意地張りそうなのに」 ついでに拳骨も飛んできそうだが、今の土方さんからその気配は感じられない。 むしろ、その逆。 土方「なんだよ、悪いか」 二夜「いえ、まったく」 お酒を飲んでいるからだろう。 肩にのしかかっている荷を下ろして、力を抜かしている土方さんの雰囲気は、どこか柔らかい。 土方さんの気の抜けた顔を見つめていると、土方さんは自分の隣の床を軽く叩いた。 土方「隣、座れよ」 二夜「いいんですか? 俺、お酒飲めないですけど……」 土方「いいから──」 不意に伸ばされた土方さんの手。 それは私の手を掴んで、引き寄せた。 二夜「わっ、ちょっと……! 」 土方さんが力加減をしてくれず、私は体勢を崩し、前のみりになって転けそうになった。 だが、何かに阻まれた。 土方「ったく、危なっかしいな」 土方さんの胸に抱きとめられていた。 危なっかしくしたのはどっちだと、抗議してやるつもりで顔を上げたら、バッチリ目が合った。 見慣れない、緩く細められた目。 どうしてか動けなくなった。 土方さんも、私の目をじっと見て動かない。 数秒経って、見つめ合っていることに気づいて、思わず視線を逸らした。 (なんだ、これ……気まずい……) 二夜「……俺、先、片付けてきますね」 宴会はまだまだこれからだろうに、一体何を片付けるのだろうかと自分でも疑問に思うが、とにかく今はこの場所から離れたかった。 だが、起き上がろうとしても、背中に回されている土方さんの腕が邪魔をする。 二夜「あの土方さん。離してくれませんか」 さっきから何も言わない土方さん。 どうしたのかと目を見てみようとしたが、何故だかそれがとても難しいことのように感じられた。 また勝手に気まずくなっていると、いきなり土方さんの腕に力が入った。 (え……?なんで、) 土方「お前……ほんと──」 呟きのようなそれの続きは、聞けなかった。 土方さんがゆっくりと後ろに倒れて、そのまま後頭部を床に打ったからだ。
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