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広間から少し離れた縁側で、一人酒をしている人がいた。
くいっと、一杯喉に流し込んで、夜空を切なそうに見上げている。
(綺麗だな……)
常日頃から、眉間に皺を寄せているあの人だとは思えなくて、こちらまで気が緩んでしまう。
気になって、こっそり忍び寄った。
二夜「……お酒、弱いんじゃありませんでしたっけ」
そっと話しかけてみると、私の存在にようやく気づいたようで、彼は私の方を見た。
土方「ん、ああ、更夜か……」
二夜「こんなところで一人酒なんてしてたら介抱してもらえませんよ。お酒弱いんでしょう?」
土方「少し飲んでるだけだ」
二夜「なんか、妙に素直ですね。土方さんって、酒は飲まないだけだー、とかなんとか言って意地張りそうなのに」
ついでに拳骨も飛んできそうだが、今の土方さんからその気配は感じられない。
むしろ、その逆。
土方「なんだよ、悪いか」
二夜「いえ、まったく」
お酒を飲んでいるからだろう。
肩にのしかかっている荷を下ろして、力を抜かしている土方さんの雰囲気は、どこか柔らかい。
土方さんの気の抜けた顔を見つめていると、土方さんは自分の隣の床を軽く叩いた。
土方「隣、座れよ」
二夜「いいんですか? 俺、お酒飲めないですけど……」
土方「いいから──」
不意に伸ばされた土方さんの手。
それは私の手を掴んで、引き寄せた。
二夜「わっ、ちょっと……! 」
土方さんが力加減をしてくれず、私は体勢を崩し、前のみりになって転けそうになった。
だが、何かに阻まれた。
土方「ったく、危なっかしいな」
土方さんの胸に抱きとめられていた。
危なっかしくしたのはどっちだと、抗議してやるつもりで顔を上げたら、バッチリ目が合った。
見慣れない、緩く細められた目。
どうしてか動けなくなった。
土方さんも、私の目をじっと見て動かない。
数秒経って、見つめ合っていることに気づいて、思わず視線を逸らした。
(なんだ、これ……気まずい……)
二夜「……俺、先、片付けてきますね」
宴会はまだまだこれからだろうに、一体何を片付けるのだろうかと自分でも疑問に思うが、とにかく今はこの場所から離れたかった。
だが、起き上がろうとしても、背中に回されている土方さんの腕が邪魔をする。
二夜「あの土方さん。離してくれませんか」
さっきから何も言わない土方さん。
どうしたのかと目を見てみようとしたが、何故だかそれがとても難しいことのように感じられた。
また勝手に気まずくなっていると、いきなり土方さんの腕に力が入った。
(え……?なんで、)
土方「お前……ほんと──」
呟きのようなそれの続きは、聞けなかった。
土方さんがゆっくりと後ろに倒れて、そのまま後頭部を床に打ったからだ。
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