俺たち私たちの思い出

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「ならば今あなたの名前を決めましょう」 唐突なそのツクモの提案に、俺も少女も驚いていた。 「…ナまエ?」 「えぇ、名前です。名称」 「…ウン!」 少女は大きく頷くと、先ほどとは打って変わって飛び跳ねるように明るい笑顔でこちらをキラキラとした瞳で見つめた。思わず圧巻するほどのその笑顔に、俺はたじろいだ。 「ねェッ!ネぇッ!どんナ名前なノ!?」 「あなたが好きな名前にしてはいかがですか」 「エッ…決めテ…くれナいノ…」 ツクモの冷えた言葉に一喜一憂する少女。どうやら名前を名付けてもらいたいようだが、生憎俺もなにも思いついたりはしない。いや、考えても人名など考えたことなどなかったのだから、思いつく方が不自然であろうか。 ツクモはそんな少女に少し迷うような、不満げなのか微妙な表情でこちらを見ては、少女に「あなたの好きなものはなんですか」と問いかけた。 「この森ノ生キ物全てだヨ!」 少女は間髪入れる間もなくまた笑みに戻り答えた。 「生物、か」 ツクモは少し悩んだようで、俺を見ては地面に視線を落とした。 生物、森の生物。実際にこの森で出会った生物。名前を知っているのは植物だけであった。コダマも揺り籠では見たことが無かったし、そんな生物は文献にも載ってはいなかった。 「…決まっタ!?」 「…!?」 不意に少女と目が合い、彼女は俺に期待のまなざしを向けた。 たじろいだ俺は思わず言葉は出なかったが、頭には一つの植物が浮かんだ。この森に初めて立ち入った時、その目に映り思わず足を止めさせた花。 「…文殊蘭」 「ハマユウ…確か…43だったカ、そコら辺にヨく咲いテタよネ!」 少女は嬉しそうに頷いて、満足したように俺に無邪気な笑顔を向けた。そしてツクモを見、決まったかと催促する。 ツクモはあまり植物に詳しくないのかと思った瞬間、そうではなかったようでその木を、先ほど少女が抱き着いた木を指さしてその不思議な声を出した。
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