ガラス王

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ガラス王

 ガラス王――そう呼ばれた人物がこの世を去ったのは、ちょうと一年くらい前になるだろうか。  もっとも、そう呼ばれていた人物は、決してガラスのような繊細な心の持ち主ではなかったが。  厳しく、プライドが高く、傲慢で、才気に満ち、所謂(いわゆる)、野心家、と呼ばれる人物の典型であった。  その人物が、何故、ガラス王、と呼ばれていたのか。  答えは簡単である。  その人物が野心を向けたものがガラスであったからだ。  もともとは製鉄所であったものを、彼の代でガラス工場へと転身させ、一代で、このスウェーデンのガラス産業を築いた、という。  さまざまな芸術家やガラス職人を自分の元へと集め、たったの四〇年で、アメリカ、ドイツ、オーストラリアへと手を広げ、老舗ガラス・メーカーと肩を並べる――いや、それ以上の地位を持った。  そして、彼は、ガラス王、となったのだ。  夏――。 「クソっ! 人を一体、何だと思ってるんだ、あのごうつくババアが!」  ストックホルムの郊外に建つ、城のような――いや、事実、城たる屋敷の廊下を歩きながら、シグルド・ワーレンは、腹立ちのままに悪態づいた。     
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