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ニンニクの匂いの方が強いと思ったのに夏希ちゃんは僅かなその香りを感じ取っていた。
「香水?…」
あたしは聞き返す。
「だからなに?」
「──…っ」
「今時、男物の香水を女が付けるなんて普通じゃん」
「………」
「違う?」
どこかで聞いたような台詞だ。
そう思いながらあたしは軽く笑って夏希ちゃんの手を払った。
「晶さん…」
夏希ちゃんは悲しそうな声で呼び掛けてきた。
「俺は…ここに来ない方がいい?……」
「………」
「晶さんの気持ちが落ち着くまで来ない方がいい?…」
「………」
「何で怒ってるのかわからないけど……晶さんが嫌なら俺、距離を置く」
「………」
夏希ちゃんはあたしからの答えを求めるように真っ直ぐに見つめてくる。
「──…っ…聞いても何も言ってくれないしっ…隠し事されるくらいなら距離置いた方が俺も楽だからっ」
声を張り上げると夏希ちゃんは何かを書いた紙をあたしの手に乱暴に握らせた。
「俺のマンションの住所だから…」
「………」
「それと…」
ジーンズのポケットを探りながら取り出した夏希ちゃんの手には二匹のマウスがぶら下がった鍵を手にしていた。
「部屋の鍵、好きな時に来ていいから…」
「………」
「二人で住む部屋なんだから、ちゃんと見に来てください」
「……なんでそこだけ敬語」
「真剣にお願いしてるから…」
「………」
「ちゃんと先考えて言ってるから」
夏希ちゃんはそう言って黙ったままのあたしをそっと抱き締めた。
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