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ずっとうつむいて歩いていたわ。それで近所の雑木林の辺りを歩いていた時にね、突然車のヘッドライトが私を照らしたの。まぶしくかった。薄目でライトの方を見たわ。
あ、お父さんの車だ、私、そう思って近づいていったら、お父さんより先に、助手席から血相を変えたお母さんがでてきて、いきなり捨て猫ごと私を抱きしめたの。
どうもお母さんは私が家出したんだと思っていたらしいの。猫を捨てろ、って残酷な指示に反発して、でていったんだと。
あの時、お母さんは泣きながら謝ってた。
「ごめんね、猫ちゃんを捨てられなかったんだね」
って。だから私もうなずいたの。
「うん。捨てられなかった」
って。
そしたらそばに立ってたお父さんが、大家さんに内緒で飼おうか、って言ったの。お母さんは一瞬苦い顔をしたけど、そうね、って賛成した。だから私は言ったの。
「いや、いいの。だってこの捨て猫汚いし」
それから捨て猫と一緒に車にのって、家族で捨て猫を捨てにいったの。
山奥に捨てたわ。その時一緒にお母さんが途中で寄ったコンビニで買ったおにぎりとかパンとかを一緒に置いていったわ。それが何だったかは知らない。私はもったいないと思って反対だったから、コンビニにはついていかなかったもの。
帰りの車内ではすっきりしてたわ。お父さんとお母さんは少し重苦しそうだったけど、私は清々してた。生き物の命ってやっぱり重いのね。抱えて歩くにはとっても重くて、手放した途端、急に楽になったんだもの。
ああ、さよならはちゃんと言ったの。
お母さんがいいなさい、っていうんだもの。でもちゃんと言えてよかったと思ったわ。その瞬間にはっきりと縁が切れたのを感じたんだもの。
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