捨て猫を捨てる話

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 捨てろ、って指示に対しては、私従順だったみたい。ほとんど粘ることなく、「わかった」って言って、回れ右して外へでていったらしいの。私の記憶は曖昧だけど、お母さんが覚えていたわ。  でもね、元の道を戻っていく途中で、私、道に迷ってしまったの。原因はわからない。たぶん、その捨て猫をいれてあった段ボール箱がなくなってたからじゃないかな、って思ってる。重石がわりの猫がいなくなって、風に飛ばされたんじゃないかな。  しばらく迷いながら歩いていると、だんだん恐ろしくなってきたの。人間って勝手よね。猫を捨てることじゃないの。今自分が抱えている、捨てられる猫のことが怖くなった。  いいえ、怖くなった、というのも正確じゃない。不潔だとか、汚らわしいとか、そういう風に感じてきたの。その感覚はだんだん強くなってきてね、触っているのも嫌になってきた。だからシャツの端を引っ張ってピンと伸ばして、そこに猫を乗せた。  猫はあまり抵抗しなかったと思う。きっと衰弱してたのね。    捨てられる猫と一緒にあちこち歩いたわ。できるだけ猫が長生きできそうな場所を探していたの。せめて、私が家に帰って、晩御飯を食べて、お風呂に入って、ベッドで眠りについて、日が変わるまで。それだけ生きてくれれば十分だった。私が連れまわしたせいで弱って死んだ、ってことになるのだけは避けたかった。    そしたらね、いつの間にか暗くなっていたの。夏だったから七時か、八時ごろまで歩き回っていたんでしょうね。    ああ、こんなに遅くなったらお母さんに怒られる。そう思ったらその猫に対して更に怒りが湧いてきたわ。私は良かれと思って捨て猫を拾ったのに、なんで誰かが捨てた猫なんかのために私が怒られなきゃならないんだろう、って。
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