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「母さん、もうそろそろなんだってよ。明日明後日が峠だって医者が言ってた」
食事時を避け、頃合いを見計らって父が口を開いた。正直何て返していいのか、何て返すのが正解なのか。わからない僕はただ黙りこくるしかなかった。兄も同じなのだろう、しばらくしてから父が再び口を開く。
「俺、明日も病院行ってくるから昼とかは自分達で頼むな。夜には帰ってくるからさ、明日は蕎麦だろ? どっか食いに行くか?」
そう、明日は大晦日。世間一般の人々はカウントダウンをしたりテレビをつけ大晦日の特番を眺めていたりするのだろう。
我が家は例年元旦に初日の出を見たあと初詣に行くという習慣があるから遅くまで起きてることはない。大晦日には年越し蕎麦を食べ、元日には初詣をしておせちを食べる。
これが母がこだわっていた日本の習わしだった。
大晦日の夕方ごろ知らない電話番号から電話がかかってきた。兄が出てみると祖父が病院からかけてきているようだった。
どうして自分の母親が危篤なのに見舞いに来ないのか、最後の顔を拝まなくていいのか、最後に伝えたいことぐらいあるだろ、返事に詰まる度に口調はどんどん強くなっていった。
父にも祖父は問い詰めていたようで父にはどうして息子を病院に来させないんだ! 来させるのが親の務めってもんだろ! と、ガンガン罵声を浴びせられたと言っていた。
その度に父は僕と兄を必死に庇ってくれていた。
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