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ちょうど大通りから外れた路地で、車はミニバン以外は走っていなかった。
車内から、ドスッと鈍い音が響く。
大口の固い瞳が、乾をまっすぐに見据えている。乾はシートベルトを外し、そのまま身体を助手席側に寄せ、両手で大口の首元を掴んでいた。
「お前がやったのか…!?鳥部さんを…」
問う乾の声が震えている。
「僕ではない」
「じゃあ!誰が」
「イヌイ…犬の血を受け継ぐ一族であるあなたが、そんなこともわからないのですか」
一方、大口は表情も変えず、声も低く落ちついている。話すときに見えた犬歯が、鋭く伸びていた。
大口の言葉に、乾はハッとする。
「他にも、いるのか」
「そういうことです」
「なんで、なんでそんなことを」
「警告です」
「警告?」
「このままでは人間は、本当にただの畜生と成り下がる。ひとつが崩れれば、畜生の集団はただの烏合の集となり組織は崩れる」
「だからって、なんで鳥部さんを…!」
迫る乾を抑えつけるように、大口は右手で乾の左手首を掴む。その爪は固くなり、毛も深くなり、握る力は次第に強くなっていく。
「…ガっ…!!」
掴まれた手首が痛み、乾は顔をしかめて叫ぶ。咄嗟に首から手が離れると、大口は掴んだその手で乾を放り投げる。乾は背中をドアに叩きつけられ、声も上げられず歯を食いしばる。
大口を見ると、顔はかろうじて原形をとどめているものの、ほほやあごの毛は髭のように深くなり、髪も伸び、耳も上に向かってとがるように伸びていた。
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