月の輝く夜

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 車窓からも見える満月を、大口は固い瞳で見つめる。  カーステレオからは地方FMが流れ、妙に片言なパーソナリティによって番組が進行されている。 「悪かったな、今日は」  乾の声がスッと響く。大口は緩んだ視線で運転席に向く。 「いえ、僕が手際が悪いので。それに多田紙器(ただしき)鳥部(とりべ)さんがやられたんじゃ、仕方ないです」 「そうだな。まさかこんな場所で野犬が襲ってくるなんて思わないし」  梱包材(段ボール箱)の取引先である多田紙器。そこの専務である鳥部が先日、帰宅中に野犬に襲われ全治1ヶ月のケガを負ったという。 「それにまさか、特注の図面引きも全て鳥部さんがやってたなんて、初めて知りました」 「あそこは小さい会社だからな。社長と鳥部さんで大方成り立ってたようなもんだ」  知ってたのですか、と言いかけて大口は口をつぐんだ。ここで乾を責めたところで何の意味もない。  鳥部がいないことで、多田紙器は大混乱しているようだ。特注サイズの梱包材を発注しても、指定したサイズと違うもの、違う形のものが届いてくる。いつも17時の配達時間が、今日は22時となり、配達担当の社員には平謝りされた。  お陰で、こちらも残業が24時超えとなった。 「こっちも特注の注文が増えてるからな。しばらくはお前たちにも苦労かけると思う。なるべく高くかからないような他のメーカーも検討するから」 「わかりました」  苦笑しながら、大口は再び窓の外の満月を見上げた。
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