2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
車窓からも見える満月を、大口は固い瞳で見つめる。
カーステレオからは地方FMが流れ、妙に片言なパーソナリティによって番組が進行されている。
「悪かったな、今日は」
乾の声がスッと響く。大口は緩んだ視線で運転席に向く。
「いえ、僕が手際が悪いので。それに多田紙器の鳥部さんがやられたんじゃ、仕方ないです」
「そうだな。まさかこんな場所で野犬が襲ってくるなんて思わないし」
梱包材(段ボール箱)の取引先である多田紙器。そこの専務である鳥部が先日、帰宅中に野犬に襲われ全治1ヶ月のケガを負ったという。
「それにまさか、特注の図面引きも全て鳥部さんがやってたなんて、初めて知りました」
「あそこは小さい会社だからな。社長と鳥部さんで大方成り立ってたようなもんだ」
知ってたのですか、と言いかけて大口は口をつぐんだ。ここで乾を責めたところで何の意味もない。
鳥部がいないことで、多田紙器は大混乱しているようだ。特注サイズの梱包材を発注しても、指定したサイズと違うもの、違う形のものが届いてくる。いつも17時の配達時間が、今日は22時となり、配達担当の社員には平謝りされた。
お陰で、こちらも残業が24時超えとなった。
「こっちも特注の注文が増えてるからな。しばらくはお前たちにも苦労かけると思う。なるべく高くかからないような他のメーカーも検討するから」
「わかりました」
苦笑しながら、大口は再び窓の外の満月を見上げた。
最初のコメントを投稿しよう!