月の輝く夜

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 しばらく、FMで流れる話題の洋楽と片言のトークを聞き流していた。 「乾さん」  信号待ちのタイミングで大口が切り出す。 「なんだ?」  何気なく助手席を振り向くと、乾は一瞬だけ固まった。大口の目に、わずかに鋭さを感じたからだ。だがそれもほんの一瞬で、改めて見るといつも通りクマを浮かべた緩い目付きに戻っていた。  乾はひとつ息をついて、顔を正面に戻す。 「どうした?」 「乾さんは、どうしてこの会社に?」 「んー、そうだな。社長の理念に共感したからかな。単純にものづくりに関わりたいってのもあったし、地元の中小だから」 「へぇ…乾さんは、ずっとこの会社にいたいって思いますか?」 「んー、今のところはそうかな。社長には、家族ぐるみで世話になってるし。妻のことも、息子のことも気にかけてくれるし。給料も他に比べれば良いしな」 「そうなんですね」 「大口は?」 「え?」 「大口は、なんでこの会社に入ったんだ?」  尋ねられ、大口は少しためらった。 「なんでといわれると…内定をいただいたのが、この会社だけだったからです」 「そうだったの?お前くらいの奴なら、他にも受かってそうだけど…あ、そうか。お前らの時期はちょうど…」 「はい、例の不況と重なってました」 「そうか…大変だったな」 「いつでも大変です」  信号が替わり、乾はアクセルを踏む。
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