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この世界のオキテ
我ながら、俺は実に幸運だったと思う。
アイツは、いとも簡単に俺の仲間たちを根こそぎ奪っていった。
だからアイツに狙われた時は、もう終わりだと覚悟を決めた。
だが、俺は全力で逃げて、かつて俺たちが総動員で仕掛けた罠のある一帯まで、なんとかアイツをおびき寄せることに成功した。
こうしてアイツの体重でもって、アイツに甚大な一撃を与えることができたのだが、視力まで奪えたのは望外の喜びだった。
もともと鼻が効かないアイツの気が動転するのを期待した。
想像を絶する恐怖と不安によって、アイツの感覚が狂っていく様が見てとれた。
だが、俺は油断できなかった。
最も確実で決定的な一撃を与えるまでは。
俺はアイツの近くに無数の毒針の山を落とし、尋問を重ねる。
アイツは衝撃で声を失っていたが、ここで誤算が生じた。
アイツは身ごもっていたのだ。
アイツに捕まることなく、罠の一帯まで誘導できたのも、このおかげだった。
俺は怯む心にムチを打ち、込み上げてくる感情を押し殺して、あくまで真摯に、アイツを救おうとする態度をとらなければならなかった。
あとは、アイツの息が絶えるまで、アイツに思い切り毒針の山を叩かせ続ければ、全てが終わる。
俺は、涙を流しながら、アイツに救いの返事を求め続けた。
しばらくすると、アイツは静かに息絶えていった。
いったいこの涙がどこから来るものなのか、俺には分からなかった。
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