真夜中ゼミナール

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 少しだけ僕の話をする。  はじめはまだ良かった。  夜毎現れる幽霊(こども)達に勉強を教える――そんなことに心の底からやりがいを感じられていた。使命だとすら思っていた。  が、僕は気づいてしまう。  自分はただあの子達の不幸を都合よく利用し、己のちっぽけな承認欲求を満たしているだけということに。  恵まれない子供にわざとらしく歪んだ手を差し伸べる――そうすることで優れた人間にでもなったつもりだったのだ。  とんだ偽善者である。  それからは地獄だった。  幽霊生徒と接するたび、僕は自分の醜さを合わせ鏡で見せられているような感覚に陥った。それに残念ながら、僕は汚い自分と真正面から向き合えるほどには強くもなかった。  だから焦った。 「とにかく何でもいい。現実の社会で役に立ち、小さく惨めな自分を誤魔化したかったんだ」  そんな時、結城凛が現れる。  彼女は僕にとって都合のいい生徒だった。この近隣に住み、しかも警察はまだ彼女の死を把握していない。  僕は迅速に結城の自宅を調べ、近隣に聞き込みをし、だいたいではあるが結城家の事情を把握した。 「正義の味方にでもなった気分だったよ」  すぐさま僕は彼女の家に訪問し、出てきた結城の母に「娘さんのことは分かっています。中にいる男と自首してください」とだけ告げて、その場を立ち去った。  そしてその帰り道、僕は背後から何者かに刺された。  そこから先の記憶はない。
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