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「病院に運び込まれた数時間後、センセは息を引き取ったの」
「……そうか」
まるで他人事のように僕はその事実を受け入れることができた。
「なあ、ところで僕は誰に刺されたんだ?」
「結城凛さんの母親よ。彼女は巡回中の警察官に取り押さえられ、そのまま逮捕。おかげで凛さんの殺害も明らかになった。男も逮捕され、庭から遺体も見つかったわ」
おそらく各種メディアで報道もされているのだろう。
「やっぱり警察(プロ)は凄いな」
僕の出る幕なんてなかった。僕はただ通報さえしていれば良かったのだ。結局のところ、僕は警察の仕事を増やしてしまっただけにすぎない。
「でも、先生がいなければ凛さんの遺体はずっとあのままだったわ」
と彼女はそんな気遣うようなことを言ってくれる。
――そう。
この子は昔から優しい女の子だった。名前は六道あすか。去年までこの塾に通っていた元生徒だ。
「悪かったな。六道(おまえ)のこと、忘れてて」
気にするなとばかりに首をふるふると振る六道。
「センセのおかげで今の私は正気を保っていられるのよ。そんなことで怒るわけないじゃない」
六道は僕と同じ体質だ。見えないものが見えてしまう。だからこそ、僕は彼女にこの厄介な体質との付き合い方を教えた。この塾の秘密を知っていたのもそのためだ。
幽霊という存在は都合よく記憶を改ざんし、あたかも己がまだ生きていると思い込む。そのせいで、幽霊となった僕は自分の正体を見抜くであろう六道あすかを知らないことにしてしまった。
いくら仕方ないとはいえ、失礼なことに変わりはない。
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