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「しかし六道。お前はよく僕がこんなことになってるって分かったな」
「……凄く嫌な予感がしたから」
虫の知らせというやつか。
ひょっとすると、彼女の力は僕とは比べ物にならないレベルで強くなっているのかもしれない。
「でもごめんなさい。私が現れなければ、先生はもう少し幽霊としてこの世界に留まっていられた」
そう言われ、僕はようやく自分の存在が希薄になっているのに気がついた。体の所々がまるでインク切れの万年筆みたく掠れている。
「なるほど。自分を幽霊だと認識してしまうとこうなるのか」
死後に余計な知識が増えてしまった。
「本当にごめんなさい。でも、どうしても最後にセンセとお話がしたかったの……」
六道は俯き、スカートの端をぎゅっと握り締めた。
おいおい。お前は悲しい時は笑う女じゃなかったのか?
「気にするな。むしろ僕はありがとうと言いたいぐらいだ。どんな形であれ、卒業生が顔を見せてくれるのは嬉しいからな」
「でも……」
「それにな、僕にはお前にそこまで気をかけてもらう価値はないよ。僕は好きで幽霊の子供達に勉強を教えてたんじゃない。ただ、そんなことをしている自分に酔っていただけなんだ」
子供より自分が大事な利己的な人間。
「塾講師失格だ」
自虐気味に言う。年下の女子に愚痴なんて本当にみっともない。
「私はそうは思わない」
意外にも六道はあっけらかんとそう断言した。
「証拠だってあるわ」
「証拠?」
「ええ。簡単な推理よ」
そうして彼女はびしりと僕を指差した。その様はさながら真夜中の名探偵だ。
「センセはこうして幽霊なってまで授業をしにきたじゃない。それだけ生徒たちのことが気がかりだったってことでしょ? 冷静に考えてみて。これってかなり異常よ。ホラーよ。怪奇現象よ。あ、これはもちろん褒め言葉として言っているのであしからず」
と、慌てふためく六道。
彼女を見ていると、なんだか少し救われたような気がした。
そして、死者の教室は閉鎖される。
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