2人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生」
薄れる意識の中、誰かが僕を呼ぶ。
六道か?
いや、この声は――
「結城か?」
「うん」
目の前には確かにあの結城凛。
しかも気がつけば目の前には不思議な世界が広がっている。
見渡す限り、白、白、白。厳しい雪原のように思われるのに、暖かく、穏やかで、心地の良い空間。
そんな世界で結城凛は、
「あたしだけじゃないっすよ。ほら」
と僕の後ろを指差した。
振り返る。
そこには僕がこれまで授業をしてきた――あの、深夜に現れる生徒達。
「お前ら……」
「みんなお礼が言いたいんだって。先生、勉強を教えてくれてありがとう――って」
胸が締め付けられる。
僕はこの子達を利用していた。自己満足のために利用していた。それなのにお前たちはこんな僕に感謝をしてくれるのか。
「幸せだの不幸だの、そんなことを軽く口にする人間は全員詐欺師だ。自分が幸福かどうかなんて死んで初めて分かるものさ」
その言葉の意味を、僕はようやく理解することができた。
最初のコメントを投稿しよう!