真夜中ゼミナール

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 幽霊に勉強を教える――それは僕にとって格段珍しいことではない。  というのも、以前からこの〝塾〟には結城と同様、勉強にコンプレックスを抱えた小中学生の幽霊が訪れてくることがあった。  引き寄せているのはおそらく僕。  小さい頃から僕の周囲ではこういった不思議なことがよく起きた。そして、そんな体質は大人になっても変わることがなかった。ならばもう開き直ってしまえというわけで深夜0時から2時までの間、僕は幽霊専門の塾講師をしている。  縁もゆかりもない死者にそこまでする必要はないかもしれない。  けれど、 「さ、この調子でどんどん解いちゃうよ~。というわけで、新しい演習プリントぷりーず」  結城はお小遣いをねだるよう手を伸ばす。  すると、セーラー服の袖から覗く白い手首に痣のようなものが見えた。  同様のものは首筋にも浮かんでおり、服の下にまで痛々しく広がっているのは容易に想像がつく。  青く、生々しく、夏の花のように微笑む彼女にはおよそ似つかわしくない。間違いなく結城自身以外の何者かによってつけられたもの……。 「せーんせい。ねぇ、先生ってば!」  その声でハッと我に返る。 「もしも~し? 私の声、聞こえてますう?」 「あ、ああ。悪い悪い。ちょっと考え事してた」 「うっそ……先生も悩んだりするすね」  満月みたく彼女の目が丸くなる。 「当たり前だろーが。僕をなんだと思ってる」 「まあ……宇宙人的な何か?」 「ふっざけんな小娘」  ただ、彼女の言うことも分からなくはない。僕だって学生の頃は不思議と学校や塾の講師を自分と同じ人間だとは思えなかった。 「あはは。自分でもよく分かんねーや。でも、凄い人だとちゃんと思ってたりするんだよなあ。だって私なんかにもわかりやすく教えてくれるし」 「そりゃどーも。で、勉強ちょっとは好きになったか?」 「それはないっす」 「おい」 「けど先生の授業は好きっすよ? 学校でも塾でも全科目ぜーんぶ先生が教えてくれればいいのに」  と無茶なことを言う。  しかし、たとえそれがお世辞であっても悪い気はしない。 「よし。だったら今日はもう少し先の範囲をやるか」 「マジ!? やるやる!」  結城の目が輝く。
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