真夜中ゼミナール

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 トントン。  誰かが僕の肩を優しく叩く。  そろそろ起きろということか。なので仕方なく頭を上げる。  すると、 「こんばんは、センセ」  目の前には見知らぬ少女。いつの間に入ったのか。薄く微笑み、さも当然の如く彼女はそこに存在していた。  日本人形のような長い黒髪に、意志の強さを感じさせる大きな瞳。背は高く、どこかの学校のものであろうブレザーの制服は一切着崩されていない。その顔立ちはゾッとするほどに整っており、およそ現実の存在とは思えない。  高校生ぐらいだろうか? 少なくとも中学生には見えないほどに大人びている。 「君は……」  本当に知らない子だった。  そういえば室内の時計はまだ深夜三時をまわっていない。ということは、だ。 「入塾希望者だよな」  幽霊生徒。彼女も死者に違いない。先ほど一人いなくなった途端これである。ある種の余韻に浸っている暇もない。 「ようこそ。歓迎するよ」  けど、少し困ったこともある。 「ふふ。センセの言おうとしていることは聞かなくても分かるわ。ここは高校生を対象としていない。そういうことでしょう?」  なかなかに鋭い。 「ま、そういうことだ」  この塾は小中学生を対象としている。まあ幽霊生徒であれば別に高校分野であっても融通は利かせるのだが……。 「高校生だとしても基礎的な内容ぐらいだったら教えられるぞ――って、君は高校生でいいんだよな?」  念のため確認はしておこう。 「ええ。ピカピカの一年生よ」 「ピカピカの……」  何とも古臭い言い回しである。ほんとに高校生か? 「だったら大丈夫だ。僕でも何とか教えられる」 「いいえ。それには及ばないわ」 「え?」  思わぬ反応に僕は戸惑った。 「入塾希望者じゃないのか?」 「ええ。ふふふ」  何がおかしいのか。彼女はまた微笑んだ。 「だったらどうして――」  君は幽霊になってまでこんな場所に現れた?  エアコンの駆動音がやけに耳につく。いつもは意識すらしないそんなものが今日は無償に不快に感じられた。
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