真夜中ゼミナール

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「君に教えたのは……僕、ということになる」  彼女は何も言わず、ただ黙って頷いた。  「いや待て。ちょっと待ってくれ。おかしい。それは絶対におかしい」  両手で頭を抱える。ありえない。  別に記憶力に絶大な自信を誇っているわけでもない自分だが、少なくともこんな重要なことを人に伝えた経緯をすっかり忘れてしまうほどに脳を劣化させてはいない。それにそもそも僕はこの目の前の少女と会ったことすらないのだ。なのにどうやってこの塾について話すことができる?  そこで彼女は僕のそんな葛藤に先回りするよう言った。 「記憶の改ざん」 「え?」 「センセは自分の記憶を改ざんしているの。だから私のことも覚えていないということになっている」 「そんなわけ――」  ない。  と言い切りたいところだが、僕は〝ある事実〟に気づいてしまった。  僕は知っているではないか。誰よりも一番知っているではないか。都合よく自分の記憶を改ざんしてしまう存在を。 「そうか。そいうことか」  それ以上考えるな――本能がそう告げる。  が、こんな時に限って人間の脳はフル回転してしまうもので、どうせならば大学受験の時にでもこのレベルで稼働して欲しかった。ほんと人生は思い通りにならないことばかりである。  結局のところ深夜に突然現れたこの少女は幽霊などではなく―― 「センセ、あなたは既に亡くなっているわ」  ああ。分かっているよ。 「幽霊なのは、僕だ」  瞬間、僕はすべてを思い出した。
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