真夜中のシ役所

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 完全に昼夜逆転したこの勤務状態……生者であるわたしにとっては大変酷なのであるが、その割に勤務時間外手当も残業手当も付かないので、どこまでも損な役回りでしかない。  こんなんじゃ、仕事終わりに友達とも遊べないし、カレシ作ろうにも生活時間が合う人なんてほぼいないに等しいのでまず無理だ。  職員組合か労働基準局に訴えてやりたいところではあるが、この業務内容については守秘義務があって、家族にも話してはいけないことになっている。  だから、わたしも今までその存在を知らなかったわけなのだが、なので同じ市役所の職員ですら、その大半はわたし達のことを「当直にあたって夜勤してた人」ぐらいにしか思っておらず、この非常識な労働状況にも同情さえしてくれないありさまである。  まあ、看護師さんとかも夜勤はあるし、百歩譲って労働時間のことは諦めるとしよう……だが、それよりももっと問題なのは、仕事で相手をするのが〝もう生きてはいない〟人間だということだ。 「――ひっ…!」 「篁くん、片目とれてるくらいでそんな顔しないの。失礼でしょう?」  いや、片目ないどころか頭が半分潰れている血塗れの男性来庁者を前に、思わず顔を引きつらせて小さな悲鳴を上げてしまうと、上司である課長の賀茂がメガネのフレームを弄りながら注意をしてくる。 「あ、はい……すみません……」  この仕事を始めたばかりの頃よりはだいぶ慣れてきたが、それでもやはりスプラッターな見た目の()民の方が来ると、どうしても驚きと恐怖を感じて体が勝手に反応してしまう。  だって、普通は一体見ただけでも絶叫するであろう幽霊を、一夜に何十体と目撃することになるのだ。そりゃあ、新人のわたしに平気でいろっていう方が無理な話だろう。  でも、わたしと賀茂課長の他に、物部(もののべ)さん、忌部(いんべ)さんという男性職員、安倍さん、蘆屋さんという女性職員の先輩がいるのだが、わたしと違ってみんなもうベテランなので、たとえ手足がもげて、(はらわた)が飛び出たような人が来ても、いちいち驚いたりなどはしない。  わたしも早く、みんなみたいに淡々と仕事がこなせるようになりたいものだ。
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