真夜中のシ役所

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「え、えっと、鬼籍登録の申請ですね。お見受けしたところ……交通事故死ですかね? それじゃ、死亡届および生前の戸籍と照合して鬼籍を制作しますので。こちらに必要事項をご記入ください。ちなみに虚偽の記載をしますと、閻魔王庁の浄玻璃(じょうはり)の鏡の前では必ずバレますのでご注意ください」  それでも、わたしは気を取り直して笑顔を作ると、マニュアル通りに自分の仕事をなんとか進めてゆく。  死民の皆さんの外見にはまだまだ不慣れであるが、そこら辺の仕事内容に関しては、一応、一通り憶えたつもりだ。  この鬼籍登録が済んでいないと、浄土か他の六道(天道・人道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄)へ行くかを決める閻魔王庁の裁判が受けられないため(※キリスト教徒などは煉獄(れんごく)へ行けない)、心残りがあって成仏できない幽霊などの例外を除き、亡くなった市民のほぼ全員が手続きにやって来る。  ので、こんな真夜中であってもけっこう忙しい……特に季節の変わり目とか、お年寄りや病人が多く亡くなられた日の夜などは、血の気の失せた蒼白い顔の人々でフロアがいっぱいになっているくらいだ。 「――すみません。今年新盆でお家へ帰りたいんですが……」 「あ、パスポートの申請ですね。それでは、鬼籍謄本の方はこちらで用意しますので、転生されてる浄土の住民票を提出お願いします」  また、次に来た白装束の品の良いお婆さんのように、成仏して天国や極楽をはじめとする浄土にいる霊が、あの世とこの世を行き来するためのパスポートを発行するのもわたし達の仕事だ。  あの世にもパスポートが必要なのは、地獄や餓鬼道などから逃げ出した亡者が、現世に不法入()するのを防ぐためである。  以前、職員課の人が「お盆とお彼岸が忙しい」と言っていたが、確かにその前後にはその年亡くなったばかりの霊がパスポートなどの手続きをしに押し寄せるし、確かに目の回るような忙しさかもしれない。  だが、そうした型通りの事務手続きならまだいい……ほんとに大変なのは、イレギュラーな事案の処理においてだ。  例えば……。
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