AM 2:10

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AM 2:10

かつて私はある大学院に在籍していた。 毎日日付をまたいでも研究室にいるのは当然のことで、そのことを当然のこととして受け入れており、違和感も感じていなかった。 周りからは「顔がこけている」「クマがすごい」と、よく指摘されていたものだった。 私の研究は、大量の試験体を使って行う実験がメインだった。 実験は大体、夜に準備し、装置を動かし、翌日の昼頃にデータを回収する流れが決まっていた。 そのため、実験準備を行うために、夕食後は実験室にこもることもいつものことだった。 この日も私は研究室から実験室に向かうために、キャンパスを歩いていた。 いつもは浮足立った学生であふれかえるこの道も今は人気がない。 ターン、ターン、と音が聞こえる。 どうやら普段講義を行っている棟の前でバスケットボールを床に叩きつけている学生がいるようだ。 それをなぜか耳障りに感じた私は、イヤホンを耳につけた。 私はイヤホンと繋がる音楽プレイヤーを操作し、録音していた深夜のラジオ番組を再生した。 視界を音楽プレイヤーから外し、私は、実験室へ向かった。 階段を上がると自動ドアが開く。頭上の蛍光灯には虫が何匹か近づいている。 深夜の実験室のある棟は、いつもどおり薄暗く、いくつかの蛍光灯がついていた。実験室に向かう長い廊下を歩くと、私の足音だけが響いている。 歩きながら他の部屋を見ても既に誰もいない。 普段は深夜まで作業をしている建築学部の製図室も電気が消えていた。 製図室の次に実験室はある。 研究室から持ち出した鍵を使って扉を開け、電気をつけた。 入ってすぐ中庭と駐車場が見える正面の窓に、散らかった実験室の室内と実験装置、私の顔が反射して映りこんでいた。 私はいつもそれを気持ち悪く感じ、白いブラインドを閉めている。 ブラインドと扉の鍵を閉めて、私はいつもの作業を始めた。
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