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うっ、と、私は声にならない声を出してしまった。
真っ白な顔が、廊下の方から私の方を見つめていた。
最初は様子を見に来た後輩かと思い、顔をじっくりと確認したが、知らない顔だった。
壊れたおもちゃのように小刻みに首を震わせた何者かが、ただただ私の方をじっと見ていた。
その顔は彼、とも彼女、とも判断できない。
私は、首を動かすことができなかった。
窓から視線を逸らせずにいると、白い顔は一つずつ増えていった。
パワーポイントのアニメーションのように、ゆっくりと顔と手が正方形の窓に現れた。
そして、正方形の窓がその白い顔と手に覆われてしまった。
その顔は何とも形容しがたく、個性のない、無機質で平板な表情であった。
しかし、確実にそれらの顔は、すべてバラバラであり、バラバラにも関わらず同じ顔のように見えた。
私を襲おうとしているのか、それすらも何者かからは感じ取ることはできなかった。
不意に耳元では笑い声が聞こえた。
口を半開きにして私の方を見てくる、白い顔たちからの声と誤解した。
しかし、それは冷静に考えると、音楽プレイヤーから流れてくる笑い声であった。
あまりに理解できない状況でも冷静に物事を判断できるのだな、 とあまりにも客観的に自分のことを見ていた。
白い顔は表情を変えていく。
目は一貫して私の方を見ており、まるで意思を感じないままである。
しかし、口を半開きにして全ての顔が動きを止めた。
そして、先ほどよりも大きく、一斉に顔をカクカクと揺らし始めた。
顔たちの行動に、私の脳の理解は追いつかず、一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
いや、違う。そもそも外に出られない。
この実験室の出入り口に顔が殺到しているのだから。
私は、実験室に閉じ込められてしまった。
しかし、顔たちをどうにかすることもできない。
絶望的な状況に耳からイヤホンを外すこともできなかった。
もしかしたら眠りかけの脳が、イヤホンを外した時に聞こえるかもしれない、顔たちが奏でる音を、本能的に避けたのかもしれない。
確かに顔たちの音を聞いたら、湧き上がる吐き気を止めきる自信がなかった。
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