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 光ることで、私にその存在をアピールしてきたのは、ブレスレットに使われているロンデル(平たい円盤型のビーズ)に嵌まるラインストーンだったらしい。  今も室内の僅かな光を受けて、チラチラと虹色に輝いている。  その他にブレスレットに使われている石は、ラピスラズリ、アメジスト、ルチルクォーツ、それと一粒だけ組み込まれたブラックオニキス。  青、紫、無色透明、黒と、なんだかシックな組み合わせのブレスレットだけれど、ロンデルの可憐なきらめきがそこに合わさると、まるで星空を仰いでいるような、神秘的なイメージとなった。 (似てる)  目の前の品を見て、咄嗟に思い浮かんだものがある。  それは、数年前にプレゼント用に自作したブレスレットだった。  使った石は、ラピスラズリ以外は違うものの、色合いが確かによく似ている。  大きな違いを挙げるとするならば、私が作ったものには、星のチャームがあしらわれていたことくらいだろうか。  ――お星さまのブレスレット  完成前からそう呼んで、石選びから組み合わせまでとことんこだわり、丁寧に心を込めて作ったプレゼント。  でも、そのプレゼントが大切な人の手に渡ることはなかった。  何故なら、ブレスレットとして形を成したのは、ほんの一瞬だけだったからだ。  完成したそれを本物の星と並べて見てみようと空に掲げた瞬間、あろうことか結び目が解けて、無残にもバラバラになってしまった。  そのことは、苦い思い出として今でも忘れられない。……というか、さっきまで悪夢として見ていた。  当時の悲しい気持ちが誇張されてか、同時は"お星さま"と呼んでいた石やパーツを探していたのが、夢ではただの暗がりであったところが現実とは違うものの、泣いていたことは変わらない。  夜明けまでと云わず、幾日も"お星さま"を探したけれど、それでも回収できたのはわずかで、ブレスレット作りを断念せざるを得なかったのだ。 (あの時のブレスレットのそっくりさんが、今、目の前にあるって、どんな冗談かしら)  悪夢を見た後、その夢を打ち消すように現実にお目見えしたブレスレット。  だからといって、別にこの青いブレスレットに特別な感情を抱いたわけではない。 (ただ――)  あの幼い日、どんな思いで、そして誰の為に"お星さま"を連ねたのかを、このブレスレットを通して改めて確認させられた。 「お気に召した?」  声を掛けられて顔を上げると、ソファに座っていた筈の母がいつの間にか傍にいて、私から水の入ったグラスを取り上げる。 「それね、貴方の部屋の模様替えをした時に、家具の隙間から出てきた石よ。新しいパーツも足したけれど、それも含めて貴方に返すわね」  ――ただ糸を通しただけだから、気をつけて持ってね。  そう言って、石から伸びた長い糸を摘まみ、慎重に持ち上げたブレスレットを空いた私の掌に載せた。  数年ぶりに私の元に戻ってきた"お星さま"。  でも、違うのだ。 「違うのよ、ママ。この"お星さま"は私のものではないわ。これは、ママにあげたかったの」
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