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 お星さまのブレスレットを作ったきっかけは、なんと言っても、父から聞かされた私の誕生時に母の身に起きた惨事だ。  生まれながらに母の命を奪うところだったと父から聞いた時、母に対する申し訳なさで胸が詰まった。  母は、命の危機に瀕するきっかけとなった私のことを恨んでやしないかと気に病んで、夜も眠れなかった程だ。  ――ママを危険な目に遭わせて、ごめんなさい。    もっと上手に産まれることができなくて、ごめんなさい。  ブレスレットを作りながら、心の中でずっと唱えていたのは、謝罪の言葉。  だが、完成から間もなくバラバラに散ったパーツを集めている内に気付いたのだ。  母に贈ろうとしたお星さまのブレスレットは、母を死なせかけたことへの贖罪以外のなにものでもないことを。  命懸けで私を産み、今日まで育ててくれたことへの感謝を忘れ、呪詛のように謝罪を唱え続け、お詫びの品を贈る行為こそが、母への愚弄でしかないのではないか。  あの時、ブレスレットがその身を以てして私に考える時間を与えてくれなければ、きっと、愚かな私は間違った考えに囚われたまま、母を悲しませていただろう。  己の傲慢さや浅はかさを思い知ったという点では、痛い所を突かれて苦い思いをしたけれど、大切な人を深く傷付ける前に愚かさに気付けて、本当によかったと思う。  私の部屋から数年ぶりに出てきたというこのお星さまは、確かに母にあげたかったものだ。  最初はただ、贖罪の為の贈り物でしかなくて、それを思い知った私は考えを改めた。 「私を命懸けで産んでくれたママに、最大級の感謝と、いつまでも元気で平穏無事に暮らせますようにって祈りを込めて、お星さまのブレスレットを贈りたかったの。あんまり強く願ったものだから、肩の力が入り過ぎて一度失敗しちゃったけれど。これはその時に溢れた思い」  手元のブレスレットに組み込まれたラピスラズリを指先で撫でながら、かつて、ブレスレットがバラける前にこの石に込めるべきだった思いを母に伝える。  思えば、あの時に使おうとした石やパーツをお星さまと呼んだ理由は、星型のチャームとこのラピスラズリにあったのだ。  深い青に散る細かい金の模様が、星空に見えたから。 「お星さま。そう云えば、いつだったか、貴方が私にくれたのも、星のチャームの付いたストラップだったわね」  『お星さま』と聞いて、母がふと声を上げる。  そう。ブレスレット作りは頓挫したけれど、代わりに、手元にあるパーツでストラップを作り、それを母に贈ったのだ。  プレゼント作りに一度は失敗し、間に合わせで用意したものに、大切な思いを込めてもいいものかとの躊躇いから、結局、当時は感謝も祈りも母には伝えることはできなかった。 「星はね、月のない暗い夜でも空で輝いているでしょう。どんなに心細い思いをしていても、空を仰げば、星が私のことを見守って導いてくれている気がして安心するの。だから、ママにも星の加護がありますようにって、星をモチーフのデザインしたのよ」 「そうだったの。そっか、お星さまのストラップをくれた当時の貴方は、そんなことを考えてくれていて、あのストラップに優しい想いをたくさん込めたのね。ありがとう、朔夜」 「こちらこそ、今日まで私が元気で幸せに過ごせてこられたのは、ママが大変な思いをして産んでくれたおかげです。ありがとう」  穏やかに微笑む母の顔を見ると、なんだか胸の中が温かいもので満たされるようで、不思議とくすぐったい。  よかった。やっと母に思いを伝えられた。
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