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過去の記憶
俺はゆっくり目を瞑って思い出していた。
中学生の頃に家を出て行った父の姿を。
休日の街中、久々に父の姿を見かけて駆け寄ろうとした矢先、父の視線の先に幼い少女と若い女性がいることに気が付いた。幸せそうに父に手をひかれて歩いていく少女の姿と、見たことのない父の優しい眼差しがあった。
それを見た俺は開きかけた口をゆっくりと閉ざし、奥歯を噛み締めて踵を返し、まっすぐ家へと戻った。
家に帰れば毎日母が泣いていて、ギスギスした空気が流れている。一緒に住む祖母やいとこにペコペコとお辞儀をしつつ、俺は必死に母の取り乱した姿に気付かないふりをして2階の自室へと上がる。
自分を取り巻く環境と違い、半分血の繋がりがあるらしい小さな少女の親子3人で手を繋いで歩く姿は、平和そのものの暖かな家族に見えて、あの光景を思い出しては俺は何度も嘔吐した。
あの時の光景が目に焼き付いているのかもしれない。
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