chikushou wankeikei middonaito

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 床に転がった折りたたみミラーが中途半端な角度で開いていた。近づいて我が身を映す。  僕は真っ白なテディベアだった。いまや埃や汚れにまみれ、毛のふわふわした感じもなくなり、ぼそぼそと束になっている。  名前は、なんだったっけ。そもそも僕は始めからこうだったのか? いまは夢から覚めたような気分で、そして、夢のなかではずっと誰かと遊んでいた気がするんだ。わたあめ機みたいに僕は頭のなかで漂う記憶をからめとっていく。  そうだ、相手は小さな子供だった。それが、どんどん大きくなって、これは成長というんだろう、ずっとこの姿の僕にはよくわからないが、人間は成長するとぬいぐるみと触れあわなくなっていくらしい。  正確には、ぬいぐるみと遊ぶよりもっと大事なことがたくさんできてしまうんだ。  僕の持ち主もそうだった。幼稚園に通うようになると友人ができた。このころはまだよかったんだ、小学生になり中学生になり、やっぱり例に漏れず僕と触れあうことは少なくなっていった。  でも、ひとつ例外があった。この子は僕を手放さなかったんだ。  社会人になって、ひとり暮らしを始めてもなお僕をそばにおいていた。
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