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「落ちこんでるのは知ってるよ。趣味があって話もあう、そんな人のサイトが閉じられたんでしょ」
しかたなく頷きながら、心配させたことを詫びる。
「気にしなくてもいいのに。お気に入りのものがなくなったりしたら、哀しいからね」
しんみりと同情するような言葉に、俺は、甘えるように口を開く。
「口で話さなかったのは、理由があるんだよ」
疑問符を浮かべる真希に、平治は、自分が真夜中のレビューになぜのめりこんでいたのか、語る。
「共感されたり、お前にうなずかれたり、楽しくなっちゃったら、"純粋な感想"とは言えないだろ。だから……ネットという距離感と、真夜中っていう静けさが、とても心地よかったんだ」
「……楽しいって、想ってくれてたんだ」
真希の声は、今日はどこか、ずっと優しい。
「ねえ。そのサイト、また復活してほしい? ……恨んでない?」
不安そうに聞いてくる言葉に、俺は、想ったことを口にした。
つくろったわけでもなく、ただ、今の心にあることを。
「――いいんだ。そのサイトでの書きこみは、確かに消えたけれど。……話し合った記憶自体は、俺の中にあるからな」
だから、違う方法を探さなきゃいけない。
もしくは……もう、そうして"純粋な感想"を求める必要も、ないのかもしれない。
楽しい映画を、楽しいと話しあえる相手が、今、眼の前にいてくれるのだから。
そう考える平治に、真希は、くすりと微笑む。
「――やっぱり、君の視点はクールだね」
その言葉にはっとして、真希を見つめる平治。
「言い出せなくて。まさか君が、こっそりやってる私のサイトを、覗きに来るなんて」
……平治は一気に、自分の顔が赤くなるのが、わかった。
「まぁ、あれだけ観た映画が重なってるのに、気づかれないのも驚いたけれど」
「じゃ、じゃあ、トゥルーさんは……っ!」
「真夜中だけの自分に癒されたのは、あなただけじゃないってこと」
そうして真希は、寂しさと不安と、期待を混ぜたような表情で、平治に問いかける。
「――消えたサイトの想い人と、現実の私。つないでっていうのは、卑怯かな?」
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